水戸地方裁判所土浦支部 昭和38年(ワ)17号 判決 1966年6月21日
主文
被告は原告に対し、別紙第一物件目録記載の土地上にある別紙第二物件目録記載の建物を収去し、かつ右地上に存する木材を搬出して右土地を明渡せ。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は原告が被告のため一、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供託するときは、確定前に執行することができる。ただし、被告が原告のため一、五〇〇、〇〇〇円の担保を供託するときは右仮執行を免れることができる。
事実
原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決と仮執行の宣言とを求め、その請求原因として、「原告は、昭和二〇年一二月三〇日別紙第一物件目録記載の土地(以下本件土地という。)を訴外滝田音次郎から買受けてその所有権を取得し、昭和二五年八月二八日その旨の所有権移転登記を経由したものである。しかるに、被告会社はなんの権原もないのに本件土地に別紙第二物件目録記載の建物(右建物は、被告が昭和三八年二月一〇日火災によつて残骸のみになつたのを水戸地方裁判所土浦支部の仮処分決定を無視して同年八月頃復旧せしめ、その一部を改造したものである。以下火災前の建物を従前の建物といい、復旧した建物を本件建物という。)を所有し、木材を搬入し、製材工場を経営し、本件土地を不法に占有しているので、原告は被告会社に対し本件建物を収去し、木材を搬出して本件土地の明渡を求めるため本訴請求に及んだ。」と延べ、「被告が主張する事実のうち、従前の建物が高木木材産業株式会社(以下高木木材という。)の所有であり、被告主張の日時に被告会社名義の登記がなされていることおよび三谷誠は素行がおさまらず、三谷安正とは不仲であつたことは認めるが、その余の事実はすべて争う。右会社は昭和一九年二月三日水戸市に設立されたがその後間もなく戦災で焼失し、精算もなされないまま放置され、登記簿上存在しているにすぎなく、被告会社とは別箇の法人である。被告主張の統制組合がその主張の日時に設立され、同日滝田音次郎から本件土地を賃借し、従前の建物を借り受けて製材業を営み、終戦後の木材統制撤廃まで営業し、その後は三谷誠、訴外川真田理平、同田島達造の三人の共同経営となつたものであつて、被告会社が本件土地を占有するのはなんらの権原もない。」と答えた。
被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。」旨の判決を求め、答弁として、「原告が主張する事実のうち、原告がその主張の日時に本件土地の所有権移転登記手続を経由したこと、本件土地はもと滝田音次郎が所有していたこと、被告会社が従前の建物を所有し、製材工場を経営していたところ、原告主張の日時に右工場に火災があり一部焼失したので本件建物に改造し、本件建物において製材業を営み、本件土地を使用していることはいずれも認めるが、その余はすべて争う。高木木材は滝田音次郎から本件土地を賃借し、その地上に従前の建物を所有し、木材業を営んでいたところ、木材統制法施行により営業継続が不可能になり訴外茨城県樫欅材統制組合が昭和一八年七月九日製材業を許可されたので、右建物および機械設備一切を同組合に売り渡し、同組合が解散し、昭和一九年二月三日被告会社が設立され、右建物等を買い受け、その引渡を受け、同年五月一五日高木木材から所有権移転登記を受けるとともに本件土地を所有者である滝田音次郎から期間を定めず賃料月額一二六円六七銭建物所有を目的とする賃貸借契約を締結し、本件土地の賃借権を取得したので本件土地の所有者が原告にしろ、訴外亡三谷誠にしろ、本件土地を前掲建物の所有権移転登記後である昭和二〇年一二月三〇日に取得したという原告等は当然右賃貸借契約を承継し、賃貸人の地位を引き継いたのであるから被告会社に対し本件土地の明渡を請求し得ない。本件土地の真の所有者は原告の祖父である三谷誠であつて、原告は単なる登記簿上の名義人にすぎない。すなわち(イ)被告会社と三谷誠間において昭和二六年四月三〇日それまでの本件土地の賃料滞納額を六二、〇〇〇円と定めこれを二回に支払うことおよび同年五月一日以降の賃料は一カ月四、〇〇〇円と定め毎月末支払う旨の賃貸借契約を締結し、その旨の契約書を作成し、被告会社は同人に同月七日二〇、〇〇〇円、同月二九日四六、〇〇〇円を支払い、その後再三に亘り賃料が改定され、同人は昭和三四年一月まで同人作成の賃料の領収証書等を被告会社に交付し、被告会社から右賃料を受領し、また被告会社の持株式を他に譲渡して暗に被告会社から金銭的要求をするとともに本件土地上の霞旅館建物北側旧館より九尺、新館より二間、東側は三間通りの返還を強要した結果、昭和三四年六月一五日被告会社は右土地を返還し、賃料として昭和三五年一月一日から昭和四〇年一二月末日まで向う六カ年間一、〇〇〇、〇〇〇円の前渡と改め、譲渡株式四〇〇株の取り消費用として五〇、〇〇〇円を同人に贈与する旨の契約をし、同人に右各金員を支払つたこと、(ロ)三谷誠は本件土地を自己が買い受けた当時被告会社が使用しておることを承知していたが、浪費僻があり賭博に耽り女道楽で身を修まらず、妾と同棲し、同人に昭和二四年頃から霞旅館を経営させていたが、自己の所有名義にしておけば何時失うことができるやも知れない不安があつたので自己名義にしておくことに危惧を感じ養子の三谷安正とは不仲で犬猿の間柄のため財産の保全上本件土地を孫の原告名義となしておいたものにほかならない。かりに本件土地の所有者が原告であるとしても、前掲のとおり原告は本件土地の賃貸人たる地位を承継したものであり、また原告の親権者三谷安正、同ふみ名義をもつて被告会社に対し昭和三六年六月二七日本件土地上に被告会社が無断建築をしたとの理由でその工事中止を催告し、結局同年七月一〇日被告会社に賃貸借契約を継続する旨の意思表示をしているから被告会社の借地権を承認している。」と述べた。
証拠(省略)
別紙
第一物件目録
土浦市字桜川町三、九二三番の一
一、宅地 二二三坪〇合六勺
同市同町 三、九二四番の一
一、宅地 一一四坪三合四勺
同市同町 三、九二五番の一
一、宅地 一三六坪三合四勺
同市同町 三、九二七番の二
一、宅地 八三坪の内七一坪四合四勺
右は附属図面表示のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、イ、を直線で結んだ線内の地域の内イ、ロ、ホ、ヘ、ト、イ、を結んだ部分
同市同町 三九二八番
一、宅地 一五六坪の内一五五坪四合五勺
右は附属図面表示のチ、リ、ハ、ロ、イ、チ、を直線で結んだ線内の地域の内チ、リ、ロ、イ、チ、を結んだ部分
同市同町 三、九二六番
一、宅地 三六五坪の内九四坪二合一勺
右は附属図面表示のヘ、ホ、ニ、ヌ、ル、ヲ、ヘ、を直線で結んだ線内の地域の内ヘ、ホ、ヲ、ヘ、を結んだ部分
同市同町 三九三八番の一
一、宅地 四九坪二合五勺
同市同町 三、九三九番の一
一、宅地 八六坪六合五勺の内三八坪六合八勺
右は附属図面表示のワ、カ、ヨ、タ、レ、ソ、ワを直線で結んだ線内の地域の内ワ、カ、レ、ソ、ワを結んだ部分
(図面、上告理由書添付の図面と同一につき省略)
第二物件目録
土浦市字桜川町三、九三八番の一所在
家屋番号 桜川町三番二
一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建事務所 壱棟
建坪 一二坪
同市同町三、九三八番の一、 三、九二八番に跨がる所在
一、木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建宿直室兼車庫 壱棟
建坪 九坪
二階 九坪
同市同町三、九三八番の一、 三、九二八番、三、九三九番の一に跨がる所在
一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建倉庫 壱棟
建坪 一〇〇坪
同市同町三、九二三番の一、 三、九二六番、三、九二七番の二、三、九二八番に跨がる所在
一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建工場 壱棟
建坪 一六四坪
同市同町三、九二八番所在
一、スレート葺ブロツク造二階建変電所 壱棟
建坪 四坪
二階 四坪
同市同町三、九二六番、三、九二三番の一に跨がる所在
一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建目立工場 壱棟
建坪 八坪